ACTIVITY REPORT再生支援プロジェクトモニタリング報告(2017年9月)

訪問者:寺田 幸弘
訪問期間:2017年9月1日~9月5日(5日間)

「アンコールの水環境」再生プロジェクト(以下、「本プロジェクト」という)は、NGO「アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材育成支援機構(以下、「JST」という)と当センターが共同で、三井物産環境基金の助成をいただき2014年10月に開始したプロジェクトです。トンレサップ湖をはじめとするアンコール遺跡周辺の水環境を保全していくため、地元の中学生に同地域の水環境について理解を深めてもらい、彼らを通じて地域の人々に環境保全の重要性を認識してもらうことを狙いとして実施してきた本プロジェクトもいよいよこの9月をもってプロジェクト期間を終了することとなりました。

9月2日には、活動の拠点となってきたバイヨン中学校において、3年間のプロジェクトを締めくくる活動発表会を行いました。発表会は、バイヨン中学校の校長、周辺の小学校の校長に加え、シェムリアップ州の教育局長の代理として課長が、市からは教育局長がそれぞれ出席し、シェムリアップ州教員養成校の生徒や多くの保護者の参加を得て開催され、地域の人々に本プロジェクトの目的、活動、成果を認識していただく良い機会となりました。

発表会の冒頭、州教育局の課長からは、「カンボジアでは環境教育への取り組みが遅れており、授業でこそ漸く取り上げられるようになってきたものの、ここバイヨン中学校で行われているような環境保全のための活動実習は一般的にはまだ行われていない。本来、環境教育は、中学校からではなく、小学校から実施していくことでより実効性が高まると思っている。小中学校での学習内容は子供たちを通じて親たちにも伝わり、それが徐々に地域の環境・衛生の改善につながっていく。」と、発表会参加者に向けて、本プロジェクトの意義が改めて伝えられました。

その後、中学校の校長からは、JST代表のチア・ノル氏が個人で所有していた3ヘクタールの土地を行政に無償提供したことに始まるバイヨン中学校創立の経緯と現況の説明がなされました。完成した3棟の校舎すべての建設費は日本からの複数の支援で賄われているとのことです。JSTの小出氏の設計による校舎はとても採光がよく明るく作られています。教員用の寮も完成し、トイレも整備され、今年4月には電線も引かれ電力で井戸水を汲み上げられるようになり、学校の運営環境がだいぶ整ってきました。2013年にバイヨン中学校ができるまでは8キロ離れた中学校に自転車で通わねばならなかったこの村の5つの小学校の子供たちが、バイヨン中学校の創立によって徒歩で中学校に通えるようになり、それによって進学率が大幅に高まってきたとのことです。実際バイヨン中学校では年々生徒数が増加し、現在は475名が在籍しています。

校長は、中学生による本プロジェクトの活動概況にも触れ、「毎週木曜日に校外活動としてゴミ拾いを行っており、またバイヨン中学校では毎日ゴミ拾いと掃除を行っているため、校内にはゴミは落ちていません。」と説明していました。水環境に関する学習活動については、単に地域の湖沼や河川の環境を調査するばかりでなく、中学生が周辺の小学校に出向いて自分達の活動や調査結果、水環境知識の説明を行っていること、中学校に設けた養殖池でナマズなどの養殖にも取り組んでいることなどの紹介がありました。

なお、本プロジェクトの活動自体とは直接的な関係はありませんが、愛知県のNPOオアシスインターナショナルとJSTが支援して行われている体育の指導と運動会(2016年から毎年開催)の様子などもスライドを用いて紹介されました。中学校には男女それぞれのサッカーチームも結成され、女子は、市内の大会で見事に優勝を果たしたそうです。学校を通じた活動が成果を上げるためには、生徒のみならず保護者の理解と協力が不可欠です。この点で、バイヨン中学校は、非常にアクティブな校長のイニシアティブにより、様々なイベントを数多く開催し、保護者の巻き込みに成功しているようです。

発表会に集まった学校と地域の関係者たち

校長からの説明の後、いよいよ中学生自身によるプロジェクト活動の報告が行われました。「水環境と水辺の生き物に関する授業」や「水辺の調査実習」は、シェムリアップ淡水魚研究所代表の佐藤智之先生のご指導のもと行われています。子供たちは日頃、食用として近くの池や川で魚を獲ってきますが、本プロジェクトを通じ、水環境の保全という目的を定めて水質や魚の棲息状況などの調査を行う過程で、いろいろなことを考えるようになりました。「大きな魚がいなくなり、魚の種類も少なくなった。これはなぜでしょうか?木が伐採され、ゴミがどんどん捨てられていることが原因ではないでしょうか。」「トンレサップ湖の水質の調査をしたところ、ゴミが多く捨てられていました。皆さんは湖にゴミを捨てますか?」「水上生活者は生活排水をそのまま湖に流しています。住民は衛生についてよく知っていません。環境の改善のためには、どうすればよいのでしょうか?」など、調査を通じて感じた疑問からはじまり、それに答える形で対策が発表されました。

環境の改善のためにすべきこととして、以下の項目が挙げられました。

調査結果について発表する生徒たち

発表はチーム毎に行われましたが、どのチームもそれぞれ自分達の調べたことを丁寧にチャートにまとめ、とても自信をもって発表をしていました。その様子から、子供たちがさまざまな活動を楽しく経験していることが感じられました。プロジェクト活動の発表に加えて、関西学院大学の協力のもと日本語を学んでいる子供たちによる日本語の発表会も行われました。内容は「将来自分がどのような職業に就きたいか」というものでしたが、多くの子供が、「学校の先生あるいは看護師などになり社会に貢献していきたい」と抱負を語っていました。上記の各種発表に加え、中学生たちによるココナツダンス、ピアニカ演奏、伝統楽器演奏が披露されました。合計3時間にわたるプロジェクト活動発表会を終えて、最後にみんなで楽しく昼食をとりました。

以上が水環境保全プロジェクト発表会の様子ですが、当センターでは、水環境保全プロジェクトの前に2006年からJSTと一緒にこの地域に木を植え森林環境を保全する取り組みを行っておりました。この取り組みを通じて植えた樹木が街路樹として立派に成長しています。今回当時植林した街路樹の成長状況も確認することができました。

2006年、シェムリアップで実施したJICAの開発調査がきっかけとなり、JSTと一緒にアンコールクラウ村の小学校を対象に森林環境保全のために木を植え環境教育を行うプロジェクトが始まりましたが、それが2014年から水環境保全のプロジェクトに繋がりました。植樹を行っていた当時は今回の舞台であるバイヨン中学校はまだ無く、現在の中学生の年頃の子供たちは村の青少年チームとして、小学生に対し環境衛生の勉強会を行っていました。今では、当時の小学生たちが中学生となり、周囲の大人たちを巻き込みながら、中学校を核に水環境保全に取り組んでいます。この取り組みが更に広がり、この地域の環境の改善につながっていくことを期待したいと思います。

活動報告

アンコールの森 再生支援