ACTIVITY REPORT再生支援プロジェクトモニタリング報告 (2016年2月)

訪問者:岩﨑 駿
訪問期間:2016年2月29日~3月3日(4日間)

「アンコールの水環境」再生プロジェクトチームの岩﨑です。国際開発センター(以下、IDCJ)では、2006年から現地NGOの「アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材養成支援機構(以下、JST)」と連携し、「アンコールの森」再生支援プロジェクトとして、植樹を中心に環境保全、環境教育活動等を実施してきました。植樹については一定の成果を得ることができたので、2014年10月からは三井物産環境基金の助成を受け、「アンコールの水環境」再生プロジェクトを開始しました。このプロジェクトは、トンレサップ湖に代表されるアンコール遺跡周辺の豊かな水環境を保全し、次世代へ受け継いでいくために、バイヨン中学校の生徒達が水環境の重要性を学び、関係者に知見を共有することを目的としています。

IDCJは、半期に1回三井物産環境基金助成活動の現地モニタリングを実施しており、今回、私は第2年度上半期(2015年10月~2016年3月)モニタリングのため、現地を訪問しました。以下、現地モニタリングの結果について簡単にご報告します。

現地モニタリング報告その1 どんな生きものがいるかな?~中学校の近くで水辺の生きもの調査~

バイヨン中学校では、中学校周辺の水域に生息する生きものの定点調査を実施しています。昨年度は、水環境保護クラブの2年生5名がはじめて調査を行いました。今年は、3年生に進級した彼らが主体となり、2年生の1クラスとともに水辺の生きもの調査を実施しました。調査には、昨年度の調査を指導したシェムリアップ淡水魚研究所の佐藤智之さんも参加されました。ちなみに、佐藤さんはカンボジアの淡水魚に魅了され移住を決意し、淡水魚の分布調査を中心に精力的に現地で活動されています(そんな佐藤さんの活躍は、かの有名なTV番組「情熱大陸」でも取り上げられました!)。

そして迎えた実習当日!朝一番にも拘わらず生徒たちは元気いっぱいです。4班に分かれて中学校近くの川に向かいました。実習とは言え川に行けることが嬉しくてたまらない生徒たちは、「調査開始!」の一言を待ちきれない様子。到着するなり川に飛び込む生徒もいたくらいです。また、到着して初めて知ったのですが、川の流れる場所はアンコール・トム遺跡のなんとすぐ脇!カンボジアを訪れるのが初めての私にしてみれば、世界遺産の脇で魚とりとは何とも不思議な心持です。ただ、生徒たちにとってはこれが日常。これは中学校の位置するアンコール・クラウ村ならではだなと、しみじみ感じました。

各班に分かれて実習に出発

全体説明が終わると、「待ってました!」とばかりに生徒たちは川に飛び込みます。各班思い思いの場所に散って、生きものの捕獲を試みます。ただ、そこは遊びたい盛りの中学2年生たち。最初は網やザルを使って生きものの採取に真面目に取り組んでいた生徒たちも、徐々に集中力が切れたようで、後半になると採取そっちのけで嬉々として川遊びに興じていました。このような微笑ましい光景を目にすると、おのずとカンボジアの人々と水の関係性について再認識することができます。

水辺は生徒たちにとって身近な遊び場であり、水辺の生きものは日々の食卓に並びます。その一方で、中学校近くでは幹線道路の脇を流れる水路に生活排水や家畜の糞便が垂れ流され、日常生活で出るゴミが山積みになっている様が目につきます。今回の実習後も全員で付近のゴミ拾いを行ったのですが、10~15分程度で用意したゴミ袋がいっぱいになりました。また、村落部だけでなく、アンコール遺跡周辺でも、地元民が飲み終わったペットボトル容器を川に投げ捨てる光景を、短い滞在にも拘わらず度々目にしました。今回の調査には、生徒たちに自分たちの生活する地域の水環境の豊かさを再認識してもらう、そしてそれを次世代に残してゆく(保全する)ことの大切さを感じてもらうと言う2つの狙いがあります。このような機会は、今後も継続的に作っていきたいと思います。

実習の後は中学校に戻り、各班採取した生きものをスケッチし、大きな模造紙にその特徴をまとめる作業を行いました。実習の前に佐藤さんから「カンボジアの子どもたちは生きものの輪郭を描くことが苦手」と聞いていたのですが、生徒たちは皆上手にスケッチを行い、定規を使って体長等の情報を調べていました。濃淡こそあれ、どの班もすべての生徒が交代で作業を行っていて、集中力も持続しています。作業後は順番に実習の成果を発表してくれました。普段の授業ではこのような発表の機会はほとんどないそうですが、発言者は皆堂々と発表していたように感じます。また、各班に3年生がリーダーとしてついてくれたこともあり、事前説明→川での実習→実習内容のまとめ→発表とスムーズに進めることができました。上級生から下級生への経験の伝達は、着実に達成されつつあると強く感じました。

班毎の発表も上手にできました!

現地モニタリング報告 その2 水環境図鑑、完成間近です!

このプロジェクトでは、水環境についての全般的な知識と、カンボジアに生息する魚や水辺の生きものの生態を紹介する子ども向けの図鑑(水環境図鑑)を、佐藤さんの指導のもと製作(本年度に完成予定)しています。現地モニタリング滞在中は、JSTオフィスで行われた今後の作業方針に関する打ち合わせに参加してきました。JSTの現地スタッフが中心となって作業を進めてきた日本語版版下は完成間近で、その進捗には前回の現地モニタリングに参加した弊センター職員も目を丸くするほどです!打ち合わせでは、クメール語への翻訳作業に入る前の、細かい内容チェックを行いました。佐藤さんからは、いくつかの魚の写真が、実際の縦横比率にそぐわない形で縮小・拡大されているとコメントがあり、本来の縮尺にあわせて写真を貼りなおすことになりました。また、それぞれの魚の一般的な体長を追加することや、特徴をより分かりやすくまとめ直すことなどが決まりました。

カンボジアに生息する魚たちが、その特徴(体色が美しい魚、メコン川に生息するもっとも巨大な魚、木に登る?魚などなど)とともに紹介されていて、とても興味深い内容になっています。今回の打ち合わせ内容を反映し、見た人が身近な水辺の生きものへ関心を持ってくれるような図鑑に進化する予定です。完成が待ち遠しい!

順調に作業が進む水環境図鑑

現地モニタリング報告その3 オーストラリアってどんな国?~特別授業:世界の国を知ろう~

世界の国々のことを知ってもらうために、過去に10カ月ほど滞在したことのあるオーストラリアについて、2年生を対象に特別授業を行いました。なんでも昨年ハワイの中学生がバイヨン中学校を訪問した際、生徒はハワイの場所について聞かれても答えることができなかったということ。短い時間でオーストラリアのことをできるだけよく知ってもらおうと、位置から始まり、歴史、動物、各州の特徴(オーストラリアには6つの州と2つの特別地区があります)について主に話をしました。「カンガルーとエミュー(オーストラリア固有の世界で2番目に大きい鳥)がエンブレムに描かれているのはなぜ?」、「首都はどうやって決まった?」、「サメとクラゲ、どっちが危険?」、「フリーマントルドクターって何?」等、トピックが多岐にわたりまとまりのない話になってしまいましたが、生徒たちがオーストラリアについて知るきっかけになってくれたら嬉しいです。「カンガルーの語源」について話しそびれたのが心残り!

自分たちの生活する地域からあまり外に出たことのない生徒たちにとっては、世界の国々について知る機会はほとんどないそうです。こちらが学ぶことの方が多い現地モニタリングですが、弊センターにはカンボジアの近隣諸国含め、世界各地での業務経験・滞在経験を豊富に持つ職員が多数在籍しています。弊センターからのプロジェクトへのインプットの一環として、生徒たちに外の世界を知ってもらうこのような機会を、今後も積極的に設けていきます。 

オーストラリアについてのプレゼン
(ソース:JSTさんのブログから)

結びに、今回のモニタリングでもJSTの皆さまに大変お世話になりました。お忙しい中中学校の中間試験や、佐藤さんのフィールド調査等勘案してモニタリング日程を調整下さいまして、誠にありがとうございました。加えて、日頃より幣センターの活動をご支援いただいている皆さまにもこの場を借りて改めて御礼申し上げます。今回の現地モニタリングを通じて、このプロジェクトの意義について再認識することができました。また、過年度の活動も着実に結実しつつあることが確認できました。今後も現地のJSTさん、佐藤さんをはじめとするプロジェクト関係者と協力して活動を進め、都度進捗状況を報告させていただきます。引き続きのご支援の程、何卒よろしくお願い申し上げます。

(文責)国際開発センター 岩﨑 駿

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